追加工事・増加費用判断基準01

東京地方裁判所判決 平成19年2月23日

【工事内容】平成14年度京葉道路駒形橋補強工事 落橋防止構造製作・設置その他工事
【工事代金】 請負代金2415万円
【原告の請求額】556万1062円
【認容額】62万5000円
【概要】橋の補強工事を被告から請負って施工完成した原告が,被告に対し,追加作業代金及び増加費用等の支払いを求めた事案について,本件追加作業のうち一部の作業は,当初契約において予定されていた範囲内の作業であったと認めることはできないとして,請求を認容し,増加費用については,被告が負担するとの合意が成立していたとは認められず,信義則上,被告が負担すべき特段の事情も認められないとして,請求を退けた事例
【判断】
1 本件追加作業について
(1)アンカー引張試験施工作業について
●作業内容と請求:被告が道路公団から指示された引張試験をしたので50万円支払え。
●裁判所の判断:原告が主張する50万円を相当と認める。
●理由
・原告の現場代理人であったBの指示に基づき
・50万円を支出
・見積書の記載:特約条項として「試験・検査費用等については別途計上願います。」

(2)ガラ搬出作業について
●作業内容と請求:
・本件工事の施工により生じたガラを現場で集積し,廃棄するための仮置場まで運んだほか,ガラを仮置場から処分業者まで搬送するための作業
・人工4人分(1人当たり1万2500円)の合計5万円
●裁判所の判断:
・原告が主張する5万円を相当と認める。
●理由
・当該作業を行うために人工4人を要した。
・見積書:ガラ搬出費用について明示的な記載はない。
・本件工事の施工により生じたガラを工事現場から仮置場まで運ぶことが本件契約の範囲内の作業
・本件ガラ搬送作業については,搬送距離や搬送量如何によって作業量や費用が異なってくるはずであるのに本件見積書には記載されていない。
・現場代理人の権限:本件見積書には「今見積書は,概算見積と致します。」と記載されており,Bは,被告の現場代理人として,請負人である原告に対し,本件工事を実施し,完成させるために必要な指示を行う権限を有していたのであるから,本件工事に付随し,本件工事の施工のために必要な作業であって,かつ,その費がを客観的かつ容易に算出することができるものについては,Bには,被告のために,当該作業を依頼する権限が与えられていたものと解するのが相当。
・平成18年度公共工事設計労務単価(基準額)の千葉県における普通作業員の単価は,1万3700円

(3)鉄筋探査部分仕上げについて
●工事内容と請求:
原告は,平成15年3月24日ころ,Bからの依頼により,鉄筋探査業者がしたマーキングの消去作業を行った。10人工 25万円
●判断:
被告の支払い義務否定
●理由:
・被告において鉄筋探査を行い,橋梁の補強のためブラケットを取り付けるための穴の位置を特定した上で,原告が,削孔以下の工程を行うことになっていたこと,・鉄筋探査工程において穴の位置を特定した場合においても,現実に削孔を開始した後,鉄筋がみつかり,穴の位置を変更することもあること,
・訴外会社は,Bの指示に基づき,平成15年3月24日の週に,人工延べ10人を用いて,コンクリート表面を削り取るなどして,鉄筋探査工程において付されたマーキングを消去する作業を行ったこと
・本件見積書:明示的に掲げられていない。
・鉄筋探査工程自体は,原告の請け負った工事の範囲外。
・しかし,鉄筋探査工程におけるマーキングは,その後の工程である削孔作業のために必要になるものであるから,鉄筋探査業者において鉄筋探査工程の終了後これを直ちに消去することが予定されていたとは考えられないこと
・鉄筋探査工程より後の工程を担当した業者において,本件工事を完成させ,引き渡す前に不要になったマーキングの消去作業を行うのは,工事の仕上げとして不自然ではないこと

(4)変更材料の試験片製作について
●作業内容
・Bの指示により,平成15年2月4日又は5日ころ,溶接の方法をフレア溶接からエポックジョイントへ工法を変更するに当たり,道路公団の許可を得るための試験片3セットの製作を行ったこと,そのための費用は7万5000円であった
・この試験片製作は,設計変更に伴うものであるから,本件契約の範囲内の作業であったとは認められず,上記(1)のアンカー引張試験施工費用と同様,本件見積書の特約条項において,別途計上することとされていた試験・検査費用等に該当するものと考えられる。
●判断:
試験片製作費用として適正な額は,原告の請求する7万5000円を相当と認める(甲3)。

2 本件増加費用について
●原告の請求内容
・原告が本件において請求している本件増加費用の原因となった高所作業車の追加投入,追加人員の投入,夜間作業は,いずれも工期の遅れを取り戻すために必要になったものであるから、その増加費用を被告が負担するべきである。
ア 移動足場設置 32台 144万円(甲3)
原告は,平成15年2月10日ころ,Bからの依頼を受け,被告の了解の下に必要な高所作業車を手配した。本来,被告が作業車を手配すべきであったが,これが使えなかったため,原告が手配をしたものである。
イ 規制時間短縮による追加人員 441人工 275万6250円(甲3)
原告は,平成15年2月3日ころ,Bからの依頼により,作業人員を増員した。本来,本件工事の請負契約においては,午前8時から午後5時までの作業が予定されていたところ,車線規制の都合上,ほとんど開始時間は,午前9時半から10時ころからであり,終了時間も午後5時まで作業ができたのは1回だけで,それ以外は午後4時までしか作業ができなかった。したがって,本来予定されていた作業時間よりも毎日2時間程度も作業時間が短い状況にあっては,工期を守るために増員せざるを得なかったものである。
ウ 夜間施工による割増人件費 18人工 22万5000円(甲3)
原告は,平成15年3月26日ころ,Bの依頼により,夜間施工を行った。もともと,アンカー施工後,30日以内にブラケットを製作する予定であったが,被告による図面製作が遅延し,さらに,ブラケット取付位置の最終指示が同年3月12日になった。工期が3月28日であったため,これに間に合わせるために夜間施工もせざるを得なくなった。
●判断
・本件工事の工程の遅れの原因が,専ら被告にあったことを認めるに足りる的確な証拠はなし。
・原被告間で,本件増加費用について,被告がこれを負担する旨の合意を認めるに足りる証拠もない。
・被告において,信義則上,当該増加に係る費用を負担すべき特段の事情も認められない。
・したがって,被告は,原告に対し,本件増加費用の支払義務を負わないというべきである。

●理由
・工期内に完成させることを定額で請け負ったものであり,本件注文書(乙1)にも,「高所作業車については支給(但し工程遅れによる負担は貴社のものとする)」旨記載されているのであるから,仮に,工期に間に合わせるため,当初の見積よりも費用が増加する結果となったとしても,これを原告に負担させることが信義則に反するといった事情がない限り,原則として,増加費用を請求することはできないというべきである。
・本件工事の進捗が遅れがちとなった理由について本件工事の工程が遅れたことが,専ら被告側の原因によるものであったとは認めがたい。
・交通規制について作業時間を具体的に特定した記載はないことが認められるほか,工期の遅れが,被告における車線規制が不十分であったことに起因するものであったとの原告の主張は,にわかに採用することができない。